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「だしの最前線を探る」Program 1:レビュー 2/2

「だしの最前線を探る」Program 1:レビュー 2/2

Program 1:レビュー 2/2

講師紹介

川崎 寛也氏
博士(農学)・「味の素株式会社イノベーション研究所」主任研究員

基調講演:『料理人のための「だし」のサイエンスとデザイン レビューと発展』

New:新しい「だし」を考える

■香りを移す(表5)

「だし」は水の中に何かを移したもの。香りには水溶性の香りと脂溶性の香りがあります。水に溶ける香りと脂に溶ける香り。メイラード反応生成物の一部は水に溶けるものがあります。スックとか鰹節に含まれる燻製成分は水に溶けるものがあります。媒体が水であると「だし」になりますし、ワインだったらソースになる。香りに関しては脂溶性がほとんどです。柑橘類、ハーブ類、スパイス類、硫黄化合物は脂に溶けますから、常温で液体の油の中に入れると植物オイルに香りを移せばハーブオイルができます。常温で固体の脂であるカカオバターとかラードに柚子の香りを入れると柚子の香りが移ったカカオバターができる。脂溶性の香りを水に移すとどうなるか。溶けませんからどんどん揮発する。ハーブティのように、お客さんの前で香りを立たせたいものは、その場で抽出することが重要になります。香りがどんどん飛ぶので、どんどんなくなっていく。だから、水に抽出する。「だし」の中でも脂溶性の香りを入れておくと、お客さんの鼻の前でどんどん揮発して、いい香りがする。溶けるものが水の中に入ると口の中に入れて鼻から香りを抜けさせるのに使えるというのが、「だし」の香りの使い方です。

表5:香りを移す

■「だし」をどう使うか

単純化して考えると、「うま味の転移」です。うま味成分を転移させるのが料理です。鰹節、昆布のうま味成分を一回水に移して、移したうま味成分がセロリに移るとセロリのお浸しになる。この転移がうま味の使い方の本質的なところで、成分は見えませんから。この食品からここに移ってと、イメージをもつと考えやすいのではないかと思っています。

■新しい「だし」をデザインする(表6)

新しい「だし」をデザインするというのは「何から」「何に」「どうやって」、この3つのシンプルな考え方になります。伝統的なものから新しいものまでどんどん変えていくと新しいものができます。昆布を水に100℃で1時間加熱するとか、数秒でやるなら昆布を小さく砕いてエスプレッソマシンで「だし」を抽出させることもできる。

表6:新しい「だし」をデザインする

■うま味の使い方を整理する(表7)

うま味の使い方を整理してみました。何カ月か前にリヨンのポール・ボキューズの調理師学校で講演した時、外国人に「うま味の使い方」を理解してもらうために使ったものです。まずは「うま味成分の濃度を高める」必要がある。それを、「形を変え」て何かに「移す」。そして「組み合わせる」。それだけです。うま味成分の濃度を高めるためには、2つのストラテジーがあります。まずは「濃縮する」。もともとあるものであれば濃縮すればいいので、加熱して濃縮したり、乾燥して濃縮したりする。「発酵」もあります。タンパク質を分解して発酵させてアミノ酸にすれば、当然、うま味の濃度は高まります。「形を変える」のは、必要に応じて固体化すれば固体化したものを削ったり、粉末にすることで、一瞬で抽出することができる。「移す」のは、水に移すのか、食品に移すのか。昆布絞めは昆布から食材に移すのも、うま味の使い方ではある。「組み合わせ」は、何かを組み合わせるということです。たとえば、「菊乃井」の村田吉弘さんが以前につくられたドライトマトとドライモリーユ茸の新しい「だし」ですが、「加熱して濃縮する」「水に移す」「組み合わせる」という考え方なわけです。さらに「Noma」もかかわっているノルディック・フード・ラボが考えた豚節。豚を「乾燥して濃縮」して「発酵」もさせています。表面に黴をつけて、「固体化」して「削って」います。それを「水に移して」豚節だという。というふうに、この使い方を理解しておくと発想が広がると思います。

表7:うま味の使い方を整理する

■うま味の情報から考える

どんなものにうま味成分が含まれているか。調べるのは大変なので「うま味インフォメーションセンター」のホームページに、うま味を多く含む食品一覧で分析されていますので、これを活用して、うま味成分の多いものをピックアップすればできるということです。

■「だし」の役割

まずは「おいしさの担保」です。「だし」が良ければ、どんな料理もおいしくなる。「おいしさの形を変える」、昆布締めとか。水に移すとか、おいしさをいろんな食品のうま味成分を取り出してきて「おいしさを融合させる」。「和を以て貴しとなす」のように。それをどう使うか。

■料理人が料理を通して表現してきたこと(表8)

料理人が料理を通して表現してきたことをまとめた正四面体です。昔は歴史とか食文化だったと思います。かつての料理人は、フランスにフランス料理を学びに行ってフランスのものをそのまま持ってきたいというモチベーションだったはずです。それがだんだん「食材」に興味が移り、次に里山とか「自然」というものを表現したくなっている。最近はもっと変わってきて、今後もずっと続くと思いますが、「サステナビリティ(持続可能性)」を表現したいために経産牛を使う。何度もお産をした牛は肉が硬い。それを使ってサステナビリティを表現する。屑野菜を使って料理をしたい。フードウエストの問題に気づいてきたのが西洋料理の人たちです。日本料理は昔からやっていますが。今まで食べられてこなかった食材をどう活かしていくかを考えた時、サステナビリティは「だし」の役割が大きいと思います。「だし」は素材を超えさせるものだと思います。料理人のみなさんは素材を表現したい。その素材を、そのまま食べる以上の感動をお客さんに与えたい。素材を超えたいんですね。たとえば、大根の皮はうま味はないが、香りはする。それをどう活かすか。そこに「だし」を入れることによって新しい料理でお客さんを感動させることができる。捨てられるようなものでも、「だし」のうま味を加えることによって、できるかもしれない。それがサステナビリティにもつながる。「だし」は素材を超えさせるものだと思っていて、札幌の「レストラン モリエール」、有名な中道博シェフの牛蒡のスープ。もともと牛蒡は土臭いものです。そこにうま味、フォンを入れることによっておいしくなる。戦後は「根っこを食わすな」とアメリカ人にいわれたという話もありましたが、根っこに「だし」を入れることによってスープになる。それがサステナビリティですね。それも「だし」の役割かなと思っているわけです。

表8:料理人が料理を通して表現してきたこと

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