Program 2:料理実演と考察 [日本料理]
講師紹介
「特製八方だしを使って」

私は、実際に使っている「だし」をどのようにしたらおいしいものができるかということで、普段のと少し変えて持って来ました。私が考える「だし」です。日本料理では「八方だし」をよく使うんですが、一番だしを味醂、塩、醤油で調味し、いろんなものに使っています。日本料理の場合は削ぎ落として繊細な味を出していきますが、今日は逆に足していく方向です。しかし、すっきりとした「八方だし」です。私どものおでんの店でもよく使います。豆腐とか野菜をさっと炊いて、この「だし」といっしに食べてもらいたいものを考えてきました。
「だし」の材料は、定番の昆布だし。昆布はそんなに高価なものでなくても大丈夫です。血合抜きの鰹節を使います。他の材料は、鶏ガラ、焼いたハモの骨、ハマグリ。それに、さっと焼いたエビの頭。何回か試したのですが、焼き加減で変わってきます。焼き過ぎるとエビを主張する味になりました。今日はさっと焼いております。それと、牛のモモ肉。あまり脂のない肉のうま味だけをさっと使います。食材は、白い胡麻豆腐。野菜として白ネギと白菜をさっと炊きます。あとは薬味を用意しています。生姜、柚子、柚子胡椒、七味唐辛子。まず、「だし」の味を召し上がっていただいて、それに薬味を少しずつ足していって、柚子くらいからいっていただくと、それぞれに味が変わってきますので試してもらいたいと思います。
昆布は水につけて一晩置いたものです。7、8時間置いたらいけるかと思います。その昆布だしを火にかけますが基本的に沸騰させません。沸騰させると嫌なえぐみが出ますので。昆布によってだしの出方が違いますので、その時の昆布によって火にかける時間とか温度は違います。毎日「だし」をとっていますが、何年たっても同じ「だし」はとれないものです。鶏ガラは灰汁が強いので霜降りしています。煮出した昆布だしから昆布を取り出し、鶏ガラを入れて一度温度を上げて灰汁をとります。鶏ガラで、ある程度のうま味を出したい。ハモは、わりと癖がない。タイやアマダイは癖がある。ハモはおいしく引けると思います。その骨を焼いたものです。貝はハマグリですが、アサリでも結構。車エビの頭でとっています。殻だけでも出ると思います。それに牛のモモ肉。これらを鶏ガラで出したものにすべて入れます。エビの味がきついかなと思いましたが、全部あわせると意外とまとまる感じです。約30分前後は煮出す。鰹節はまだ入れていません。鰹節は炊いてしまうと、えぐみが出てしまいますので最後に入れます。灰汁をきれいにとり、温度を80℃くらいまで下げます。そこに血合を抜いた鰹節を入れる。一回、ガラをとります。いい肉をさっと火を通して使うのも一つ、料理であると思います。シャブシャブのような感じ。「だし」のイメージでは、鍋をした後の「だし」で雑炊とか、麺類を入れるとおいしい。その上品さができないかなとイメージしてつくったものです。一回冷まします。温度を下げます。高い温度で鰹節を入れると一気に濁る。濁った感じは味も濁るということで冷まします。80℃くらいで鰹節を差します。あまりおかないで、さっと。「だし」がおいしくないと、いい材料を使って料理してもおいしくない。日本料理は「だし」かな、と感じながら、同じものはなかなかできない。わざわざいい材料をあわせるというより、普段、調理場で出る材料を使ってもいいと思います。静かに漉します。ある程度、濃い味ですので軽く絞ってください。これで一応ベースができました。あとは、醤油と味醂、これで「八方だし」をつくります。
「八方だし」をつくっておいて、それをベースに酒を入れて。癖の強いものは酒を入れたり、さらに甘みを出したり、塩分を調節したりするわけです。あとは味醂と薄口醤油。塩はその日によって調節して使います。これでベースはできたのですが、今日は野菜を加えます。白ネギと白菜をさっと炊いて香りをつける。日本料理にしては濃厚な「だし」になっています。ある程度のベースをつくっておいて変化させる。味のないものを、と考えますが、おでんでも野菜をさっと洗うようにして火を通す。「だし」も飲んでいただく。ここで白ネギと白菜に少し火を通します。胡麻豆腐が中に入っていて味をみていただいて。薬味は柚子、生姜と順番に。柚子胡椒はきついので最後に。今回は、「だし」を味わってもらいたいので食材は凝っていません。どんな感じですか。いろんな味がしますか。では、盛りつけます。胡麻豆腐もあっさり目に。あとは食感だけですね。
以上、「八方だし」でいろんなものに使える可能性を、ということでいろんなものを入れてみました。本来、料理ですとエビなど彩りがあるものをもってきますが、今日はシンプル。天盛りとして柚子とネギをまぜたのを添えます。鍋の最後に豆腐を入れたような感じですかね、雑炊や麺を入れる時の「だし」。高価なものではなく、調理場にあるもの、魚の骨とかを使ってつくってみました、という「だし」でした。



■考察(川崎寛也氏)
ポイントは二つあると思います。一つは、相乗効果。グルタミン酸とイノシン酸、うま味成分には二種類ある。グルタミン酸とイノシン酸が同時に口の中に入ると、うま味を強く感じる。それぞれの食材に多い成分は決まっている。メインは昆布。大量に入っているのでベースは昆布だなと。それと鰹節のイノシン酸と、牛モモ肉が入ることによってうま味を強く担保する。おいしさの担保をしながら日本料理らしく、先に乾燥させて、メイラード反応を起こさせたハモの骨、エビの頭、これも香りですね。そこからうま味は出ないが、香りが出てという独特の「だし」があり、そこへ醤油、味醂が入って何にでも使える香り高いものになる。
もう一つは、香りです。鍋のイメージでネギと白菜を使われた。料理人が無意識でも「これを入れたらおいしくなるだろう」というのを「なぜ」と考えるのが、僕の仕事です。なぜ、ネギと白菜なのか。硫黄化合物なのですね。ネギと白菜には硫黄化合物が多い。それが入ることによって、よりおいしいと思う香りになっているのではないか。長く炊けば硫黄化合物がメイラード反応にも加わる。メイラード反応は複雑な反応なので、より肉っぽい香りになったりする。今回はそこまでではなく、ネギと白菜の香りが入るということですが。
それに、日本料理の重要な価値観、美意識ですね。「和を以て貴しとなす」ということで、「だし」を飲んでも、注意深く味わって感じるくらいの味。エビの頭の香りとハモの骨の香りは全体がまとまって、おいしい「だし」になっている。入れる量、焼き加減が重要で、なるべく丸くする。何があるかわらかないが、おいしい「だし」になっているということで仕上げたかったのではないかなというのが僕の考察であります。上野さんは、エビの頭、ハモの骨、牛肉を入れたら「きついかな」とおっしゃった。「脂の多い牛肉を入れるときついかな」「エビの頭もきついか」なという、「きついかな」という言葉が耳に残りました。それが日本料理らしさにつながっていて、「何かを突出させない」ようにしたかったのだろうなと思いました。

門上 魚とか肉を意図的に加えていくと、また新しい「だし」ができてくる可能性はあるんですね。
川崎 もちろんそうです。どういう料理にしたいか、最終的なイメージによりますが。魚を使うためには逆に何かを引かないといけない。日本料理は全体として突出させないこともありますが、料理によっては何かを突出させたい時もあるんでしょうね。
上野 その時は、もっとバランスを変えると思います。
川崎 ラーメン屋さんはわざと突出させて、エビそのものの「だし」を使うでしょう。日本料理はコースの献立の中で「突出してはいけないから」と、控える。
門上 日本料理は「和を以て貴しとなす」ということは外せないわけですね。
上野 コースの中では、「この香りで、この味で」というのも、あることはあるのですが。
門上 過程で何を入れるか、何を引くか。何をどう食べさせたいかを考えていくと、今日の「だし」を巡るなかでは新しい可能性が生まれてくると思われます。会場の会員さんも、質問があれば質問シートを用意していますので、それに書いて提出してきてください。上野さん、川崎先生、ありがとうございました。


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