Program 3:ディスカッション 2/2
講師紹介



門上 ピントという、またまた興味深いワードが出てきました。それと、柚子の決め技の話もありましたが、大澤さんへの質問です。「シャンタンで鮮をつくるのに素材の臭みを消し、うま味を追加する。酒類が使用されていない理由はあるのでしょうか」ということですが。
大澤 本日のスープに関して、おいしい鯛とおいしい白湯(パイタン)なので臭みはないし、うま味の強いもの同士の組み合わせですので、酒類を使う必要がないということです。和食では最後に柚子、中華料理は最後に片栗粉をつけて胡麻油、途中で胡椒を振ってオイスターソースを入れて、というのが普通です。そうではなく、「自分がどういう料理をつくりたいか」が大事なので、僕は胡麻油は使いませんし、胡椒は「この料理は胡椒の料理にしたい」という時に使います。自分で「何をつくりたいか」をもっていることが大事なのではないかと思います。
門上 吉岡先生はどのように見られていましたか。
吉岡 酒を使う、使わないというのは料理人の個々の考え方によると思います。今日は3名の「だし」を拝見しましたが、上野さんと山根さんの食材は、ある程度似ている部分があったと思います。上野さんは、そこに醤油と味醂を入れて、それを実際に飲んで、たいへんおいしく感じました。「だし」の勉強会ですので完成される料理は間違いなくおいしいのですが、「だし」をつくられる段階で、一度飲ませていただきたいなと思いました。山根さんの「だし」など、あれだけ時間と材料を費やしてつくっているので、どういう「だし」だったのか飲んでみたかったなというのが感想です。中国料理の大澤さんに関しては、今日のシャンタンを仮に店でスープだけ(具材なし)で飲んだとしても5,000円(1ℓ)は請求される、それくらいの価値のある「だし」です。そこに、今日はドライトマト、鯛の頭、鯛一尾まるごと入れて「だし」をとられた。かなり強い味の、飲む「だし」なのか、ソースなのか、わからないような「だし」を完成された。そこに組み合わせたのが、臭いもうま味も個性の強い羊という、強い強い組み合わせがうまくいったマッチングだったと思います。シャンタンを使わずに他の「だし」を使われたら、また違う面白さが出たのかなというのも感じたことです。
門上 できた「だし」だけを飲みたかったという感想。考えれば、少量ずつでもテイスティングしていただければよかったですね。今後の展開には参考にさせていただきます。強いものと強いものを合わせたのが、うまくいったのではないかという見方について、川崎先生の考察をお願いします。
川崎 それぞれ料理の違いが現れていました。中国料理は強いものを合わせるところで、力でねじ伏せる印象をもつ。今日の料理は中国料理に慣れた人にとっては、マトンでもいいくらいのスープの強さだったと思います。マトンでクミンを効かせてハーブ、シャンツァイ(香菜)を使った方が、もしかすると、より病み付きになる料理かなと思いました。強いって、何なのか。人間が動物として生きていく中で必要な栄養素、成分が大量に多様に入っているものだと思います。食べる人にとっては強すぎるものでも、若い人にとってはたまらないものになる。若い人向けの店の料理はどんどん強くなっていく。料亭と割烹の違いにおいても、料亭はできるだけ一般向け、割烹にはうまいものを食べに来る人にしっかりしたものを出す。その違いはあるんでしょうね。
門上 料亭と割烹も新たなテーマになりそうです。次は山根さんへの質問です。「イタリアンに昆布を使うのが意外でした。本場にはない食材かと思います。イタリアでは昆布の代わりに何を使っているのでしょうか」。
山根 昆布を使って25年以上になりますが、昆布の味を前面に出したいわけではないんですね。昆布にはグルタミン酸は多いですが、ミネラルとかヨードとかもあって、他の食材にどう作用するか、解明されているかわからないけれど、イメージとしては昆布の成分はいっしょに合わせた素材の個性、おいしさを引き立ててくれるように感じています。最初はフグの「だし」をとりたかったんです。フグの「だし」をとる時に昆布を入れてみたら、フグがよりフグらしくおいしく感じて、同時に昆布の作用で「だし」が澄むんです。灰汁を吸い込んでくれる。それから使うようになった。今は、一晩水に漬けておいた昆布水を使っています。合わせる料理のおいしさを引き出してくれる水という感じです。豆の「だし」は精進だしではないですが、うすいえんどうのサヤから「だし」をとるんですが、サヤのまま茹でて、あとに残った「だし」を使っています。イタリア料理をイタリアのままにする気はないんです。イタリア料理というものの考え方で料理をつくっています。定番の材料を集めてきて再現するとか、ある時代のものをそのままつくるようなことはしていない。昆布水を使った方がより素材のピュアなおいしさを表現できるのであれば使います。サルサ・ディ・ポモドーロでパスタをつくる時、普通、茹で汁を入れて伸ばすんですね。茹で汁を入れる理由がわからない。粘りけがある粉が溶けた水、しかも塩が入っているですよ。伸ばすなら、昆布水を使って伸ばす。昆布水で伸ばしたポモドーロでパスタをつくっても、お客さんで昆布が入っているねという人はいないですよ。昆布の味を出したいのではない。グルタミン酸であればトマトそのものがグルタミン酸も多いし、ドライトマトとかがある。何料理とか、ジャンルではないんです。昆布は海の野菜ですから入れて何の違和感もないですよ。
門上 山口さん、フランス料理でも昆布を使う人が多くなってきましたが、実際に昆布をうま味の代用にしているんでしょうか。
山口 うちは昆布を使ってないですが、これから料理の作業性を考えていったら、昆布からとるグルタミン酸をうまく利用していくことも考えていかないといけないなと思っています。フランス料理やイタリア料理は、力でねじ伏せるくらいのつくり方で、引くのではなく足していくという、ソースもうまいし肉汁もたっぷりみたいなつくり方が根底にはあると思うので、さらっとしたソースはあまりないのかな。肉自体、野菜自体、魚自体、素材がしっかりした味であるべきだというのはあるんですが、そこが料理の違いになってくると思うんですけど。
門上 髙橋さん、日本料理はベースに昆布はあるわけで、それが世界に広がっていることは感じられますか。
髙橋 今は一等の昆布なんかはほとんどない。二等、三等、四等まで使っています。海外でもそういうことが広がっています。グルタミン酸と糖質、うま味が如実に出ているので、水で出すよりも昆布を加えることで底味が出るということでイタリア料理でもフランス料理でも使いやすい素材だと思います。
山口 当然、違いは出ますよね。フランス料理の基本的な構成は3大栄養素ですね。タンパク質と脂質と糖質。カロリーのあるものがおいしいと思うから、この3つをどうつなぎあわせるかがフランス料理。牛ヒレ肉の上にフォアグラが乗っていて、トリュフの入ったソース、マデラとか甘いソースにタンパク質で上に脂質が乗っていてみたいな。そこですよね、原点は。時代が変わり、お客さんの嗜好が変わる。油脂分はできるだけ排除するとか、粉を使わないとかの変化が出てきます。アラン・デュカスはデザートなどでほとんど砂糖を使わない。どんどん排除していく。そういう流れがあるし、これは行き過ぎだという話もあって葛藤があって新しい時代ができてくるわけです。でも、フランス料理が日本料理に寄っていっているわけでも、日本料理がフランス料理に寄っていっているわけでもなく、お客さんの要望に応じたもので、できあがっていると感じています。
門上 野菜の「だし」が、これからの時代の中で大事なものになっていっている。昆布の存在がグルタミン酸とかの要素をもっていて料理の中で大事になる。大澤さんは、いつものルーティンみたいなものの見方が一つということをちょっと変えてみようといわれた。いろんな要素があったと思います。この研究会では「デザイン」という考えを提唱していますが、いろんな物事がデザインに終着していくような気がしますね。
川崎 そうですね。何をデザインするか、究極的にはお客さんの体験をデザインする、エクスペリエンスデザインの考え方もあります。ただ、デザインって、いろんな言い方があると思いますが、単純に意図をもってコントロールすることだと考えてみる。お客さんが食べたいのは何か。食材、素材だと思っているので、食材をどうやって農家につくっていただいたり、漁業の人にどうやって収穫してもらうか。それがどうサステナブルか。素材そのものを食べてもらうのではなく、心理的なものを含めて付加価値をつける、それをデザインしていく。そういう考えでいかないと、「だし」は素材を超えさせるものというのは、まさにそういうことで、うま味成分には嫌な味とか風味をマスクする力がある。苦かったり、酸っぱかったり、臭いがしたりというものをマスクできる。山根さんがいわれたフグの話で、フグがよりフグになったということですね。嫌な部分があったら「だし」がフグの嫌な部分をマスクして、フグがもつ本来の香りとか、いい部分をよりグッと底上げする。「だし」はそういう役割だろうと思って、デザインも基本的なツールと思えば、いいかなと思います。
門上 どんどん次のテーマが出てきますが、次回の第29回は来年2月17日に大阪で、辻調理師専門学校で「だし」のパート3を展開させていただきたいと思います。吉岡先生にはデモンストレーションを担当いただきますのでよろしくお願いします。それでは第28回の「だし」のイベント、これにて終了いたします。みなさん、どうもありがとうございました。




