• 定期
「だしの料理との可能性を探る」Program 1:レビュー 1/2

「だしの料理との可能性を探る」Program 1:レビュー 1/2

Program 1:レビュー 1/2

講師紹介

川崎 寛也氏
農学博士・味の素株式会社イノベーション研究所

基調講演:『料理人のための「だし」のサイエンスとデザイン 「だし」を使う』

今日は「だし」をどう使うか、使い方がテーマです。その前に、質問をいただきましたので僕の考えを含めた回答を話した後、「新しいだしの使い方」に関して話したいと思います。

■質問と回答

質問1:「だし」を長く加熱したら成分が変化して味は変わりますか。うま味成分は何と何の相乗効果がありますか。3つ、4つと増やすとより相乗効果があるのでしょうか。

回答:うま味成分のグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、椎茸とかのグアニル酸ナトリウム。そういう成分は熱で変化しません。ただ、香りは飛びます。煮詰めていくと香りは飛んでいって味は濃縮されることになります。アミノ酸であるグルタミン酸と、核酸であるイノシン酸またはグアニル酸を組み合わせると相乗効果がある。うま味成分のグルタミン酸とイノシン酸またはグアニル酸が合わさると、うま味を強く感じる。全部足すとどうなるかという研究は見たことありません。イノシン酸はグルタミン酸がうま味受容体にくっつく時間を長くするということがわかっていますが、全部足すとどうなるかという論文は見つかりませんでした。

質問2:中国料理では蒸して「だし」を取ることがあります。「煮る」と「蒸す」のメカニズムの違いと、その食材に対する向き不向きを教えてください。

回答:「煮る」のは、下からの加熱によって対流が起こること。灰汁が出た場合は上に浮いてきます。蒸発を伴うため濃縮が起こり、さらにメイラード反応が起こり、脂質酸化が起こる。空気に触れる鍋の上の部分は酸素があるために起こります。「蒸す」のは、ゆっくり全体から加熱される。筋線維タンパク質の収縮が起こるために温度が上がるには時間がかかる。対流しにくいので灰汁は出にくい。濃縮がないので下処理をした成分の多い素材でないと薄く感じる。いろんな種類のコンソメを少量ずつ必要だった時、材料をパウチに入れてスチコンで作ったことがあります。それでもクリアなコンソメはできます。ただそうすると、濃縮が起こらないので薄いということがある。事前に量を調整するか、加熱して濃縮することが必要かと思います。メイラード反応が起こりにくく、脂質酸化も起こりにくい。

質問3:香りを移すところを詳しく教えてほしい。

回答(参照:表1):香りが水や脂に溶けるとなくなるのか、「だし」やソースに移るのか、揮発するとどうなるのか。香りを移すのが「だし」の重要な考え方の一つだと思います。味を移す、香りを移すのが「だし」を取ることの意味で、味成分は水に溶ける。脂には溶けない。焼き肉では塩とゴマ油をつけて食べますが、油に塩は溶けない。馴染んでいるだけです。香りには水溶性の香り成分と脂溶性の香り成分があります。分子の構造から決まっている。水溶性の香りが水に溶けるから「だし」に含まれる。メイラード反応の香ばしい香りや燻煙の香りが「だし」に含まれていく。柑橘類、ハーブ類、スパイス類は油脂に溶けますが、油脂に溶けることは油脂の中に保持されるということなのでハーブオイルは油脂の中に香りがある。脂溶性の香りが水に入るとどうなるか。溶けないからどんどん揮発していく。だから、香りをより強く感じることになる。椀物には「一番だし」が入っていて吸い口に柚子の皮を入れる。柚子の香り成分は脂溶性の香りですから、それが水に浮くと揮発する。だから吸い口の香りは強く感じることになります。クールブイヨン、ハーブティなど脂溶性の植物性の香りも水に溶けない、水に入れるとどんどん揮発して、よく感じる。

表1:香りを移す

質問4:「うどんだし」をつくる際、硫黄化合物を入れるとしたら、どのような食材を使い、どのように取れば面白いと思いますか。

回答:硫黄化合物はキーになっていると思います。硫黄化合物が入っているもので、元気になるというニンニク、ニラなど、中国料理はよく使うのに日本料理は使わない。硫黄化合物がメイラード反応に入ると肉っぽい香り成分ができる。中国料理とかフランス料理で硫黄系の野菜が入ってくる。さらに肉の臭みをマスキングする。「うどんだし」をつくる時、それを入れると普通のうどんではなく、カレーうどん、肉うどんとか、肉っぽい香りが入ってもいいものには硫黄化合物が入ると面白いのではないかと思います。

質問5:「野菜だし」と言われるものの立ち位置についてどう考えるか。

回答:野菜の「だし」とは何か。野菜そのものに、うま味成分が入っているかどうかで大きく変わると思います。うま味成分をもつ野菜、トマトとかにはグルタミン酸が入っていますから、それを中心に構成すれば、うま味をもつ「だし」として成立しますが、ニンジンとかには砂糖が多く、単に甘い水のようなものになるのでちゃんと考えないといけない。「野菜だし」は野菜から取ったということに価値を見出すのではなく、味わって甘い味がするか、うま味がするのかを考えてやるのがいいのではないかと思います。

質問6:新しい「だし」を考えるにあたって、うま味の使い方を考えること。最近は形状が粉末になったり、パックになったりしていますが、冷凍することが「だし」の新しい可能性を見いだすことはできますか。

回答:冷凍とは、温度を下げるだけではなく、固体化とか、時間を止めるとか、いくつかの考え方を想定すると良いと思います。冷凍すると時間が止まるということで、それ自体には意味はないかと思いますが、冷凍の「だし」は固めた「だし」ですから冷凍によって価値が変化することはないかなと。粉末やパックですが、何をもって簡易化というか。「だし」を取るのは面倒なのか、本格的な話なのか。「だし」の原型はポトフのようなごった煮の汁だと思います。そもそも「だし」を取ることは誰がつくっても同じ味にすることで、原始的な料理からするとある種の簡略化で効率化でもある。「だし」を取るというのは、すでにある種の簡略化、おいしさの担保であるという気がしているので。それの進んだものが粉末とかパックになると考えています。

質問7:「だし」の成分をみると、メイラード反応生成物、硫黄化合物、燻製成分が含まれる。それらを風味成分と呼んでもいいですか。

回答:風味(フレーバー)は、生理学的には味覚による感覚+鼻腔からくる嗅覚による感覚のことです。生理学的には「風味成分」と言わない方がいいかなと思います。味覚と嗅覚に作用する成分は異なります。風味成分は両方ということになりますから、厳密にいうと「味成分」と「香り成分」とした方が良いと思います。

質問8:塩分と「だし」の相関関係について。

回答:塩分は重要で、グルタミン酸の味はおいしくないのですが、そこへ塩がちょっと入るだけで「だし」の感じになる。京都の料亭を何十軒か調査をされた結果、「だし」の塩分濃度は平均0.9%前後。京都の料理人がおいしいと思う塩分は0.9%だった。これは生理食塩水の濃度です。身体には負担のない濃度。最近わかっているのは、「だし」のうま味成分の濃度が高いと塩分は薄くてもおいしく感じる。塩分と「だし」のおいしい関係を考えていけばいいのではないかと思います。

質問9:「だし」と水の硬さについて。

回答:論文を見ると、鰹と昆布の「だし」のグルタミン酸の濃度は、カルシウム、マグネシウムのない軟水の方がよく出る。96℃で10分加温という「だし」の取り方による実験だと高硬水が軟水よりも出ているので一概には言えないもしれません。重要なのは、「だし」が出るかどうかもそうですが、水自体の味かなと。水の味もカルシウム、マグネシウムの味を感じるので、そっちの方が大きいかと。たとえグルタミン酸が出ていたとしてもカルシウム、マグネシウムを感じることによって、味が変わることもあるのではないか。コンソメと鶏の「だし」に関しては、実験では硬水の方が「だし」が出ています。

質問10:「だし」の消臭効果。鰹節と昆布から取る「だし」に何らかの臭みをマスキングする効果がありますか。

回答:鰹節にもメイラード反応の生成物がありますが、臭みのマスキング効果があります。燻香自体にも肉などの臭みを消す効果がありますから、メイラード反応の香り、燻香がはっきりわかるほどの濃い目の「だし」は何らかの臭みを消す効果があるかもしれません。

他にもこんな記事が読まれています