Program 2:料理実演と考察 [日本料理]
講師紹介
「鴨真薯の煮物椀」

■料理実演
本日は、宇治のお茶をはじめ、京都に縁の食材を使いながら料理します。鴨は宇治の茶畑の周りで育った京鴨です。
まず、鴨ミンチを50℃くらいの温度に戻しています(雑菌が繁殖しないよう注意して短時間でおこなう)。「だし」は、茶油から絞った椿油に似たものに強い蒸留酒を混ぜたもの。強いアルコールで水と油が乳化して、アルコールは揮発しますので油に「だし」の香りを移してそれを練ります。アルコールと「だし」の香りがしています。油の中にも香りが入っています。醤油を入れて、先に油と香りを馴染ませて乳化させます。温まった鴨肉に馴染むように同じくらいの温度にします。鴨は肉の味とともに脂のもっている味もおいしいと思いますので、鴨の脂と「だし」の香りを含んだ油を合わせたい。脂と油はくっつく性質がありますので、混ぜると鴨の脂にも馴染んできます。少しずつ入れると馴染みやすい。振っていると油の「だし」の香りが出ます。鴨の臭いはアルコールで飛ばしていきます。加熱していきます。レシピには鴨ミンチ500gとしていますが、半分の250gを加熱して味付けしたもの、もう半分は生で練ったものを合わせて、最後に真薯として使います。半分を火を入れて味を馴染ますのは、つくった時の収縮と、食べている間に鴨の火を通したものと生が混じり合い、噛むと味に変化が起こります。同じ調子の味にならないことを狙っています。
煮詰めていきます。酒100ccを葛粉が溶けるくらい、真薯をつくる時のつなぎに使います。水と油がアルコールと分離して油が浮いてきます。油の酒の分をとっておきます。煮詰まって味がついてくると、糖度が高いあんぽ柿をペーストにしたものを砂糖代わりに入れます。柿のフルーツの香りと鴨の香りを馴染ませます。なぜ柿を使うか。お茶は年1回、春先から夏にかけてしか収穫できません。それで宇治の農家は、柿の木を植え、秋に柿を干して売って冬をしのぐということで茶畑に柿の木があります。その香りがお茶にも移っているのではないかと思われます。ずっと煮詰めていきます。煮詰まってくると、香りが飛んでしまわないように浮いていた油を戻して冷まします。最後の仕上げに山椒を少し混ぜます。



真薯をつくります。すり混ぜていきます。よく練ることによって肉が変性してモチッとしますが、真薯がモチッとした感じになるようにします。店では手で混ぜています。山芋をおろします。赤味噌、大豆でつくった生クリームのコクリームを混ぜます。ここで、テイスティング用に基本の「だし」を配ります。昆布と鰹で取った「だし」です。それに卵を入れます。つなぎになる葛粉と日本酒を混ぜたもの。それに緑茶の粉です。これは玉露と煎茶の間で、半分は陽を覆わせ半分は陽をあてて育てたお茶。玉露は陽にあてないで甘味を高くする。煎茶は陽にあてて葉の香りと苦味をつくる。その間で甘味もあり、香りも強い緑茶を入れていきます。最後の仕立てに、京番茶を「だし」の香りに含ませて煮物にする。京番茶のお茶の香りと緑茶が合致して香りが違和感なく食べられるということです。真薯ができました。これを椀種にしていくのにとっていきます。二番だしに椀種を入れて成形します。炊いてしまうと味が抜けるので形を整えて火を通します。味付けの意味ではなく、軽く「だし」の味になればいい。
椀種の形に整えます。周りが固まって中は火が通らなくてもいい。あとはスチームコンベクションオーブンで完全に中まで火を通します。炊きすぎると味のうま味が抜けていきますので15分間。火が通った煮物です。それに蒸し野菜。「だし」の味がシンプルにわかるように蕪を塩蒸しにしたものと金時人参を椀盛りにします。香りの木の芽と白髪ネギを添えて。お客さんに供する時は、お客さんの前にもっていき、コーヒーサイフォンで京番茶を使った「だし」を注ぎます。
コーヒーサイフォンは下で沸いた液体が上に上がって、上で香りが移ってまた降りてくる。「だし」は、お茶のグルタミン酸と昆布のグルタミン酸の香りが相乗効果を起こして鰹節の燻製臭と京番茶独特の香ばしい香りが合致して、より一層深い香りのある「だし」になって味を強く感じると思います。京番茶は特殊で、葉っぱのまま揉まずに天日干しにして、きつい燻製臭をかけるんですが、刈ったまま天日干しにしているので発酵している。その効果もあって味に深みがあるお茶になります。鴨とか四つ足と合わすと、いやなところを還元してくれます。京番茶の香ばしい香りがします。これをお客さんに供して、今日の具材を言って、入れたての香りの変わった「だし」として提供するということが、私が考える「だし」を使うこれまでとは違うやり方の料理にしてみました。関西食文化研究会ですから、背景にもつ文化ですね、畑の中にある柿をつなげて宇治の食文化を私なりに解体して、再度構築した料理にしました。ありがとうございました。

■考察
川崎 椀種も複雑な工程でしたね。
下口 椀種は日本料理に使う煮物椀にしようと思うと、「だし」と別になってしまう気がするので、どうくっつけようかなと考えました。「だし」だけでは弱いので、「だし」の香りに付随するお茶、柿を入れて、まろやかにして「だし」をつなぐ、オイルとかエッセンスを寄り添わせるという、味にも見えない部分があって、どこかに合致するものが味にもあると。食べてわかるのではなく、どこかに入っていて、「だし」とつながっているというイメージでつくりました。
川崎 ポトフを原型に、それを分けて因数を増やしていくというのが料理の発展だと述べました。日本料理にはその最たるものがあって、椀を「一番だし」で使うと何の関係もないことが多い。それをわざと椀種の中に、「だし」に含まれる要素を入れることで一体感を出したというのが意図ですね。面白いのは、お茶を使われたことです。新しい料理を考える時、「素材を使いたい、こういう技術を使いたい」というのが目的の場合、大体失敗するんですね。使うことが目的になって。今回、成功しているのは、「だし」がいろんなものを溶かしこむ、うま味を転移させて溶かしこんだだけではなく、食文化も溶かしこんでいる。「だし」の懐の深さに液体の中に文化まで入れる、京番茶を溶かしこんで文化を感じさせる仕立て、それを客前ですることによって、より強調できていたところが成功の要因だろうなと思って、おいしくいただきました。
門上 料理は土地とか伝統、文化に影響されることが多く、それを考えないといけない。下口さんは見事に宇治という地政学的なところも食文化も採り入れられた。料理が新しく生まれてくる時、自分の足元に戻ることとか、他国の調理法とか、科学的なアプローチとか、いろいろありますが、科学的なアプローチと文化が見事に合体したものだなと思いました。


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