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「だしの料理との可能性を探る」Program 2:料理実演と考察 [中国料理] 2/2

「だしの料理との可能性を探る」Program 2:料理実演と考察 [中国料理] 2/2

Program 2:料理実演と考察 [中国料理] 2/2

講師紹介

吉岡 勝美氏
「辻調理師専門学校」中国料理技術顧問
実演

「中国茶のスープとショウロンパオのひと碗」

次に、この二つのスープを使って料理をつくっていきます。フカヒレの濃厚な白湯(パイタン)スープと澄んだ清湯(チンタン)スープ、そのギャップを使った料理を考えてみました。今日のメニューは中国茶のスープと小龍包(ショウロンパオ)のひと碗<参照:図10>。まず、小龍包(ショウロンパオ)の餡からつくっていきます。フカヒレの白湯(パイタン)は、冷めれば固まるが、餡に混ぜて使うには硬さが足りない。そこで豚の皮を適当な大きさに切ってボイルして、皮の内側の脂肪を完全に取り除いたものをフカヒレの白湯(パイタン)の中に入れて3時間蒸します。冷ますと、こういう煮こごりができます。ゼラチン質でブロックのように固まっています。それをもう一度溶かして挽き肉に混ぜる。煮こごりが再び冷えて固まる時に挽き肉の中の水分も一緒に固める。皮で包み、提供時に蒸すと液体に戻るというのが小龍包(ショウロンパオ)の仕組みです。まず肉に塩を加えてよく練る。練ることで粘りが出て、うま味が増す。蟹肉を加えて、餡が完成です。

図10

皮は、強力粉と薄力粉を使っています。焼餃子は熱湯で小麦粉を練ります。小麦粉のデンプンが熱湯によって糊化する。焼けた面はパリッとし、皮の中は炊きあがった米の粒のように柔らかく、おいしくなる。水餃子は湯がくのでデンプンの糊化だけでは破れてしまうから、水で練る。グルテンの形成を狙っているわけです。小籠包(ショウロンパオ)の皮は包んだ餡の水分が外に出てこない、皮が破れないくらいのグルテンが必要。また熱湯で練った皮のように柔らかくもちっとしている、程よいデンプンの糊化もほしい。そのためには60℃のぬるま湯がベストだといわれています。糊化しているか、していないか、わからない微妙な温度です。練った生地はかなり固いが、ビニール袋に油を塗って中に入れると一晩で柔らかくなります。油がもつ伸展性を利用しています。オーストリアやドイツにアップルシュトゥルーデルというお菓子がありますが、理屈は同じです。もう一つは生地の中に砂糖が入っています。和菓子の求肥も、砂糖が入ることによって保湿性が高まる。硬くならないけれど砂糖を入れすぎると生地が甘くなる。トレハロースなども候補でしょうか。

では小籠包(ショウロンパオ)をつくっていきます。フカヒレの白湯(パイタン)のゼラチンで固まった餡は加熱すればたっぷりのスープになります。生地は油を入れないとこうはなりません。砂糖を入れないとザラザラ感がありしっとりとしない。伸ばして包んでいきます。生地を伸ばして、二個包むだけです。今、試食用の料理が配られていますが、最初は皮を破らないで、外側のお茶のスープだけを飲んでから小籠包(ショウロンパオ)を食べてください。熱い料理ですから熱いうちに食べていただきたい。10gの皮に20gの餡を包んでいきます。小籠包(ショウロンパオ)の上部に生地が集まり固くなりやすいので気を付けます。碗の中にほんの少し油を塗って、小籠包(ショウロンパオ)を入れ、6分くらい蒸します。

最後に、中国茶風味のスープをつくります。清湯(チンタン)スープを沸かした中に塩を入れます。スープの濃さによって塩分は変わってきます。この中に「東方美人」というお茶を加えます。台湾のお茶ですが、オリエンタルビューティ、シャンパンの香りがする烏龍茶などといわれる、半発酵茶です。鉄観音などと同じ部類で、半発酵によってうま味も香りも出てくる。ウンカという稲の害虫が飛来して烏龍茶の葉っぱをかじる。そこが黄色く変色します。それを採取して乾かしたもので、1年に一度しか採れない。後味はマスカット、シャンパンとか、フルーティな甘味が持ち味のお茶です。清湯(チンタン)は豚肉とヒネ鶏とリュウガンの果肉を使っているので、味も塩味だけ。お茶も無駄を削ぎ落としたシンプルなスープに合うもので組み合わせています。塩で味を調えたスープに茶葉を入れていきます。一人用の急須に入れて蓋をして小籠包(ショウロンパオ)の入っているスチコンに入れます。蒸しあがった小籠包(ショウロンパオ)と、お茶の香りのするスープの入った急須を盛りつけます。お客さんご自身で急須からお茶のスープを注いでいただく。スープを飲んでから小籠包(ショウロンパオ)を召し上がってください。他では生姜や黒酢を添えたりしますが、今日は何も入れていません。今日つくりたかった一品ができあがりました。

■考察

川崎 吉岡先生ともっと「だし」の話をしたかった。私は上海で中国料理の「だし」、薬膳などの研究をしていたので、興味津々でした。白湯(パイタン)スープのデモンストレーションは、凄いの一言。白湯(パイタン)を分解して、違う材料に置き換え再構築する、それによって「だし」を自在に白湯(パイタン)にすることができる。今日の「だし」は金華ハムのフレーバーがして、白湯(パイタン)にある脂の癖もない。しかも、それをスチコンでやられてしまう。驚くべき内容だったと思います。これは秘密にしておいた方がいいかもしれない。すっかり興奮してしまいました。

吉岡 メイラード反応についてはどのような感想をもたれましたか。

川崎 研究対象の鶏の「だし」では、上海の老鶏を使っていました。分量は鶏に対して水がその倍、それを半分になるまで煮詰めて鶏の最初の重量と同じにする。2時間半で茶色になりました。濃縮が起こるのと100℃が続くことでメイラード反応が起こってくる。150分~180分だったのでメイラード反応が起きていたと思います。120分では起こっていないし濃縮も残っていない。金華ハムはメイラード反応が起こったものですから、鰹節的な香ばしいフレーバーも入っていると思いました。脂が全く臭くない白湯(パイタン)ですよ。白湯(パイタン)を取る時、強く沸騰させますが、蓋をしないと表面が酸素に触れて茶色になる。乳化させたいから強く沸騰させるために、蓋をしてメイラード反応を起こさないように仕上げないといけない。白湯(パイタン)は脂が含まれる素材、ゼラチンが含まれる素材なので、どうしても臭みが出てしまう。本日の「だし」には、それがないのです。分解して再構築することのいい点が、これからの中国料理の可能性を示している感じがしました。これは中国料理にとって凄いことだと思いました。仕立ても凄い。実演された一品は、小龍湯包(ショウロンタンパオ)のような感じで、外と中が違う。クリアなものと濃厚なものが両立するような、こういう仕立てはこれまでないですね。上海の「豫園」は小籠包(ショウロンパオ)で有名なところで、小龍湯包(ショウロンタンパオ)もあって、ストローで大きな小籠包(ショウロンパオ)を吸うんですね。本日の一品はそれとも違って上品で、周りが清湯(チンタン)ですし、「東方美人」がすばらしい効果です。最初に香りがくる。その後、「だし」があって、それを飲んだ後、小籠包(ショウロンパオ)にいく。提供のかたちもいいし、感動しました。どういう観点で食べたらいいかということを話すべきなんですが、白湯(パイタン)を例に、中国料理にはそういうところがいっぱいあると思うんですね。フランス料理には調味料がないから、分解・再構築が必須なのです。日本料理や中国料理には調味料があることで分解・再構築があまり進まなかった。でも、白湯(パイタン)一つで、こういうことができるわけですから、いろんな部分で、もっと高い段階の違う観点で料理が進むことができるかなと思いました。

吉岡 調理科学が国境を超えるという、その意味では中国には伝統的な技術がたくさん埋没しているので、今の時代に合わせながら引き継いでいければと思います。

「中国茶のスープとショウロンパオのひと碗」

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