Program 3:ディスカッション 1/2
講師紹介



コアメンバーが加わり、「料理実演と考察」をもとに、だしと料理についての討議をおこないました。
参加コアメンバー:山口 浩氏(「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長)、山根 大助氏(「ポンテベッキオ」オーナーシェフ)、髙橋 拓児氏(「木乃婦」三代目主人)
進行:門上 武司
門上 「だし」の最終回です。吉岡先生の白湯(パイタン)スープに川崎先生が大絶賛されました。山口さんは現在、中国料理を通信教育で勉強されているそうですが、その白湯(パイタン)スープをどう思われましたか。
山口 正直、白湯(パイタン)スープは苦手なんですが、でも飲んだ時、臭くなかった。それに説明を聞いて、こんなに簡単にできるのだと驚きました。吉岡先生には中国料理の奥深さを見せつけられたというか、お茶の見識の高さも見事でした。みなさんが知識をもちすぎておられるみたいで、自分とのギャップに辛い思いをしているという感じです。
門上 川崎先生には、あらためて、吉岡先生の白湯(パイタン)スープの意味を話していただきましょう。
川崎 白湯(パイタン)とか奶湯(ナイタン)という、中国における白いスープですが、ゼラチン質が多い部位を使うところから始めて脂がしっかり出るものを使う。ゼラチン質と脂、二つの組み合わせで加熱していくんですが、実は強加熱が必要で、対流を強引に起こして乳化しないといけないから、ゼラチンの乳化力を使って豚の脂や鶏の脂を乳化していく。強い火は加熱すると蒸発のリスクがある。そうすると素材が表に出てくる。素材が出るとメイラード反応が起こって茶色になる。白湯(パイタン)や奶湯(ナイタン)は白いことが大事なのに、茶色になる。それを避けるために蓋をして水を調節して強火で炊く。簡単そうに見えて炊く時にコツが必要です。それを分解して再構築する。素材とともに調理技術そのものを分解して、何のために脂が必要か、ゼラチンが必要かを考える。動物のゼラチンでなくても、ゼラチン質の乳化力があればいいということで、よりコラーゲンの多い、純粋なコラーゲンに近い魚のコラーゲンを使った。素材と調理工程を見直して再構築されたことが重要です。しかも中国料理においては、そういうことがあまり行なわれてこなかった。フランス料理やイタリア料理は常に分解・再構築を繰り返して料理が発達してきた。だから、本日のは、中国料理のエポックメイキングです。中国料理の次世代の料理人はびっくりされたでしょう。吉岡先生は、料理の基本や調理工程の意味を問い直すことを教えた。習ったことをそのままやるのではなく、中国の長い歴史がある中で日本人がやることの意義も考えて、調理技術を客観的に見て、これからやるべき道を示された。今、法律の問題もあり、労働時間を減らしたり効率化が求められる時、吉岡先生はこれからの中国料理はどうあるべきかを考えられているようで、重要な話だったと思っています。
門上 本日の吉岡先生のデモンストレーションは新しいページを開いたのではないかという印象です。髙橋さんはどんな感想をおもちですか。
髙橋 フカヒレの軟骨をペーストにされたことが新鮮でした。白湯(パイタン)でも清湯(チンタン)でもスープを取るには水に抽出する行為をしますから、もともとの物体を潰してコロイド状にして中に溶け込ませる方法は使わないと思うんです。水に溶けている状態でもなく、軟骨の粒子が水にゼラチン質が融解しているのでもなく、コロイド状に固形して存在している。白湯(パイタン)ができやすい半面、コロイド状に存在しているので喉ごしに少し違和感があるマイナス面もあると思うんです。ナノ粒子くらいに潰せば別ですが、まだ固体の状態に残ったままで炊く場合はゼラチン質になって水に溶けている。それが細かいザルでも漉せるような状態になっているのでスムースにインしてくる。そこの攻略点が、今後、次の段階でのスープのつくり方かなと思いました。私たちは常に液体にうま味を抽出する行為で「だし」を引いていきますので、そこの枠組みから外れると「だし」ではなくなる恐れがあって。野菜を潰して粉砕して水に溶けさせることはしますが、肉を潰してその状態で漉してスープを取ることはあまりしないんです。日本料理は、固定物がその中に入ることを善しとしない文化なので、その枠組みが西洋の料理とは一線を画するところかなと、今までの話を聞いて思いました。
山口 と言うか、仕上がりの水分量を決めて、そこに溶かしこんでいるんですね。出来上がりの状態を、すでにつくる時に決めているように思うのですが。
吉岡 確かに、仕上がりの水の分量を決めています。基本的に食材に水を加えて抽出する操作を行ないますが、鍋で炊いて仕上がりで漉した液体の量が今回の水です。煮詰まることを必要としない。できれば少し煮詰まってほしいという希望はありますが。フカヒレの軟骨を細かくしてペーストにして加熱しても全部が完全には溶けないのです。溶け切れなかったフカヒレの残りは、また次に使える。一度漉して残ったのは同じように使う。100%同じではないですが、かなり濃厚な白湯(パイタン)が取れます。豚骨とかとは大きな違いだと思います。




