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「魚の火入れ」Program 2:料理プレゼンテーション&考察 [イタリア料理]

「魚の火入れ」Program 2:料理プレゼンテーション&考察 [イタリア料理]

Program 2:料理プレゼンテーション&考察 [イタリア料理]

講師紹介

山根 大助氏
「ポンテベッキオ」オーナーシェフ
料理

「白身魚のブロデット 油脂と濃度が魚の火入れに与える影響についての実験」

料理プレゼンテーション

今日はブロデットです。魚の料理に求められるのは、魚がパサパサしないこと、しっとりすること。カチッとならず柔らかい感じに仕上げたい。火入れはいくつか考えました。その一つが、炭で焼くこと。『ポンテベッキオ』はオープンして34年目になりますが、ずっと炭火焼です。炭火の焼台を造ったりして、おいしく焼ける方法を常に考えてきました。炭の熱は光みたいに広がるので、筒や容れ物で囲ると熱の方向性を自在に決められる。炭の熱は360度に広がってしまい、一点に集中できません。出口の形状を変えることで懐中電灯のようにスポットで照らしたところが焼ける。炭の熱は上に広がっていくので上に反射板をつければ熱を下に落とすことができる。熱の集中する場所をつくって、そこで焼く。さらに、油をたくさん使って焼きます。イタリア料理では肉を焼く時も魚を焼く時も油を塗りながら焼く。鮎を油でコンフィしたりする。当店では子持ち鮎を焼いて出していますが、かなり油を使います。油を塗りながら焼いていく。表面がフライになっていくようなイメージです。中の湿度は保たれ、しっとり感を失わず水分を逃がし過ぎない。油にくるまれることによって全体的にグッと火が入っていく感じがする。

もう一つはムニエルの技法。イタリアンにもフレンチにもありますが、ムニエルは魚に粉を振ってバター、オリーブオイルで油の温度を140℃に保ちます。クリーミーな泡が出る。泡をずっとかけながら泡に包まれている状態を保ちながら焼いていく技法です。バター焼きではない。油に包まれている状態を保つ。クリーム状の細かい泡が出るのが140℃。バターには乳清という水分が含まれていて油とまじる結果、クリームができる。それをかけながら加熱する。水分がホールドされて抜けにくくなる。油脂がしみこんでいく、油脂に包まれている状態で焼ける。

もう一つ考えたのがクッキングシート。それに三重くらいに魚をくるんで縛ったものをオーブンで160℃で12分焼く。蒸し焼き状態です。メイラード反応を強く求めるのであれば固まりのまま転がして焼きます。表面にパリッとした焼き色をつけて。これは中が三重になっている紙に包まれて火がゆっくり通ります。160℃で加熱しますが、中は60℃前後くらいになっている。時間をコントロールすれば、うまく焼けます。スズキのようなコラーゲンが多い魚は皮を触るとべたべたするくらいゼラチン質を感じます。

もう一つが、魚の身を溶かしたバターの中に漬け込んだ状態で真空パックにして、油の中に漬けて加熱するもの。油温が65℃くらいでゆっくり熱を入れる。油からさらに中のバターに伝わってバターから魚に伝わる。バターの中に漬かっているので魚の細胞の中に油が染み込んでいく。柔らかく、しっとり仕上がります。

今日はこうしたのとは違う手法でしてみます。アイオリソース。ニンニクを茹でこぼして柔らかくしたのをピュレ状にして卵黄とか油脂を加えてつくるソースです。湯せんにかけ、太白胡麻油を使ってマヨネーズのような感じに溶かします。味の加減でトマトの量を調整しています。魚の出汁にサフランを加えて強化します。パンチェッタを昆布出汁で入れました。レモンの皮を少々入れます。魚はスズキを3枚。2時間前に塩してあります。塩をすることによって火を入れたらゼリー状になるタンパク質によってしっとり感が出る。保水性を高めるために前もって塩している。もう一つはソースの濃度が高いこと。火にかけてゆっくり加熱していきます。オイルを含んだソースの中でゆっくり火を入れていきます。沸くくらいまで加熱しますが、たくさんつくる時は魚の表面をオイルで少し加熱しておきます。安全のために表面だけを殺菌する。切り身の中まで菌に汚染されることは少ないですが、表面が汚染されることもあるので念のため。アーティチョークはゆっくり加熱する。表面がカリッとなるまで焼きます。中はしっとり、ふっくらしている状態。ソースの状態を見ながらゆっくり加熱していきます。ポイントはゆっくり火を入れていくこと。温度変化をなだらかに加熱すること。アイオリソースに入っている卵黄も加熱することで固まって濃度が出ます。温度を測りながらやることに比べるとローテクです。ブロデットはイタリア料理で魚を使ったスープとか煮込みのことをいいます。ズッパディペッシェともいう。バジリコとかいっぱい入れます。固まりでバンバンと入れて、しばらく炊きます。バジリコのいい香りがする。しばらくすると香りが消えていき、ただの草の香りに変わります。香気が液体に移ると抜いて捨てる。液体は油分が多いので濃度が出ている。水で湯がくよりも濃度のあるもので湯がいた方が、うま味が外に出にくい。

火が通りましたので盛りつけていきます。出汁の濃度、塩分、粘性、うまみの濃さ、味の濃さを含む濃度、魚のもっている濃度が、いっしょになった時、味の交換が起こらない。こういう感じでソースの中で魚を加熱する、それによってソースの濃度と魚と濃度がいっしょになり、うま味、味加減、粘度がいっしょになった時、濃さの差がないから出汁が出てこない。スープをとると同じ濃度になるところまで出汁が出る。出汁の材料と液体の濃度がいっしょになった時、出汁が出るのをやめる。僕はいつも薄くとります。液体の量を増やして薄くとって必要な濃さまで煮詰めます。その時に香りが飛びます。煮詰めながら新たに香りの材料を加えます。これが、材料がもっているうま味成分を一番引き出せる。反対に一番味が出にくい状態をつくって、温度を気にして油脂をたくさん使うことで、さらに味が外に出ず、食感が失われないようにと考えました。こういうところでございます。

考察

川崎 ブロデットとは「煮込み」というもともとの意味ですね。イタリア料理で難しく、さらに素晴らしいところは「分解と再構築」がそこまで進んでいないことなんですね。これに似た料理をフランス料理でつくると、もっと再構築して、魚は魚、ソースはソースでやると思います。それを煮込みの中で、どうやってアップデートするかという煮汁を工夫した料理だと思います。オイルがしっかり乳化するように、卵黄を加えるのとニンニクも乳化する成分が濃い。茹でこぼした後は香り成分はいらないが、コクとなる部分とか乳化に必要な部分が入っている。油が入っていて、その中で加熱する。しかも濃度がついている。水に比べると対流が起こりにくい。下からの熱が温度に変わる。「熱」と「温度」は分けて考えるんですが、「熱」が「温度」に変わる時、対流が起こりにくいから火入れが柔らかくなっているのが、この料理のポイントかなと思いました。

山根 濃度とか粘度をいっしょにすることによって味の交換が起こりにくいことはあるんでしょうか。

川崎 なかなか想像しにくいなと思っていて。加熱して離水温度を超えると、出るのはしょうがいないと思うんですね。60℃くらいで。それを止められるかというと、難しいのではないかな。浸透圧ではない。浸透圧は細胞膜が生の状態で生きてないと起こらない。加熱すると細胞が縮んで、ジュースは外に出るはずですけどね。

山根 ブイヨンをとる時、材料があって液体になる。それが、どこまで抽出されるか、濃度が同じになった時まで、ではないんですか。

川崎 同じになるまで、ということは、あると思います。ただ「同じ」というのが何をもって「同じ」とするか。出なくなるところはありますが。

山根 煮詰めれば濃くなるけど、材料に入っていくこともある。煮込みにならないように、どこまで出汁をとるか、悩むところなんです。フォンドボー、骨とか野菜を炊いて、1日終わるとまた新たに加えて何日も繰り返して炊く。濃くはなりますよ。でもだんだん出ないような気がする。濃い液体には抽出力はないというか、飽和状態になっているというか。

川崎 抽出力というよりは、たまたま骨と同じ濃度までフォンが高まってしまったら「出る」というより、「交換」は起こるかもしれませんが、成分が出にくくなることはあるのかな。

「白身魚のブロデット 油脂と濃度が魚の火入れに与える影響についての実験」

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