Program 3:パネルディスカッション 1/2
講師紹介



参加コアメンバー:山口 浩氏(「神戸北野ホテル」総支配人・総料理長)、吉岡 勝美氏(「辻調理師専門学校」中国料理技術顧問)
進行:門上 武司
門上 3グループに分かれてグループディスカッションをしていただきましたが、まず吉岡先生から、今回のデモンストレーションを見られてのご感想をお願いします。
吉岡 髙橋さんの料理は、いらないものを削ろうとするデモンストレーションで、わかりやすい設定だったと思います。中国産の甘鯛はアンモニア臭や酸化臭がするので油を使って炊き汁を乳化させた中で味を入れながら火を通した。例えば、甘鯛をサッと表面だけ低中温で揚げてから煮たらどうか。揚げてから蒸したらどうなのかなどと思いながらいただきました。山根さんは液体の中に入れて香りを付着させて火を通す。テーマをこなしながら商品としての価値観をきちんと獲得されているデモンストレーションだったなというのが実感です。
門上 髙橋さん、「一度、揚げたらどうか」という話、いかがですか。
髙橋 焼いたり揚げたりすると香ばしい香りはしますが、味わいが強化されますので、反対に柔らかさやしっとり感がなくなり、私の店の本来の甘鯛の料理ではなくなってしまう。伝統の継承という意味では、それをやると先代の存在が失われます。テーマの「温故知新」とおいしくつくることは違うのではないか。「故きを温ねて新しきを知る」とは、前にやっていた特性をなくさないことが大事で、それがものごとを続ける姿勢でもあると考えています。先代が使っていたような甘鯛だといいのですが、今や京都に入ってくるなかで買える値段は中国産の甘鯛しかないと、これまでと同じように踏襲しながらやるのは難しいということなんです。Cグループで「足す料理ですね」という話もありました。食材がダウングレードした時には足すことが必要だなと思っていて、もともと食材が100のものが80までダウングレードしていますから、余分な部分を抜いてあらためて95までもっていく作業が必要になります。今後は日本料理でも何かを足していくことが必要になるだろうなという話をしました。
門上 山根さんもCグループでした。この「足していく」ということについてはどういう話をされましたか。
山根 髙橋さんと同じようなことなので自分でも驚いています。液体に油脂を混ぜて乳化させて加熱するのも同じ。事前打合せはしてないんですよ。80のものを何かを足していくためにテクニックを使うという意味では大賛成。例えば僕は赤身の肉でステーキをやると繊維が固いので繊維を直角に細かく入れるためのカッターもつくりました。びっくりするくらい柔らくなる。ネガティブを消す訳です。霜降りの肉でないものをリーゾナブルに提供するために、紫外線をあてるとか、特殊なロースターをつくっておいしくするとか。フライパンで名人が焼くより、スタッフが炭火のロースターを使ってやっても充分に安く提供できる。大部分のお客さんは一食何万円も使えないし、いかに高いレベルに向かっていったとしても、全体の食レベルが上がることにはならないから、何かをしなければいけないと思っています。
門上 Cグループではその他「下味」についての質問が出ていたようですが。
山根 塩によってどんな効果があるかということですね。水溶性の部分でゲル化して保湿する。僕はうま味を強く感じさせるためのメリハリの塩と味の交換を、できるだけ起こさないように加熱したかったので、ソースの味が魚に入らないから下味を少しつけました。下味はいろいろやるということを申しました。「フレンチは表面だけ、すぐ焼いて中に味が入らないのでソースをかける」という質問もありました。下味をつける場合もあるし、ソースが絡みやすい濃度のあるソースを添えて混ぜながら食べるから、そんなに中まで味が入ってなくてもいいよと話しました。硬めの肉でステーキをやると、必ず切って、断面にもう一回塩をします。塩をしながら食べてもらう。そうするとおいしく感じますよね。
門上 山口さんは前回「肉の火入れ」で超低温長時間調理をされました。今回のテクニックをご覧になっていかがでしたか。
山口 前回の高橋さん(「瓢亭」の高橋義弘さん)も昆布もいいものが入りにくくなる時代に備えておられました。今回は甘鯛でしたが、今後起こりうる近未来のことを考えて、「温故知新」がサステナビリティの可能性とか、客単価を考えながら仕事を分解され再構築されることにつながっていく。フランス料理も今や二代目が出てきている時代ですが、大局を見ながら料理をつくるようになるのかなと思いました。山根さんの料理は山根さんらしいおいしさを追求する、そこに執着しておられる。それぞれの個性が出たデモンストレーションでした。髙橋さんには、油を使って日本料理を変えるというパラダイムシフトを見せていただいて、三代目はすごいなと思いました。
門上 川崎先生、何の打合せもなく、考え方やスタイル、技法が同じ方向であったということについてはどうみられていますか。
川崎 一見、似たような技術と思われるかもしれませんが、僕は全然違うのではないかと思いました。日本料理はあくまで油は調理技術としての油であって最終的には全部取り去って銀あんをかける。ある種の調理器具として油を使われたのではないか。一方、油をおいしさにもっていったのが山根シェフだと思います。そういう意味でも違って見えました。
門上 最近は日本料理でも魚に油を塗ることも結構あるとか。Bグループでは中国料理に対して「油をどう使われるか」という質問があったようです。中国料理は油の料理だともいわれますが、うまさの追求に調理技術として油を使うということなのでしょうか。
吉岡 日本料理は水に守られている料理です。中国では黄色い河が流れていますが、中国人はそれを汚いと思っていない。しかし、料理に使うと弊害がでるということでいろんな調理法が生まれてきた。油を多用することもそうして発展してきたひとつ。油で香味野菜を加熱して香りを使う。食材のもつ個性を生かすために高温の油で揚げて表面の水分を飛ばして香りをつけてから炒める、蒸す、煮込むなどをする。ゆっくり低い温度で油通しをして柔らかく滑らかな状態で炒めるなど、油使いのテクニックは中国料理が長けているように思います。
門上 次に、Aグループの「干物のメカニズム」の質問について、川崎先生に説明をお願いします。
川崎 「干物は火入れか」という質問がありました。干物を40℃で焼くと腐敗していくので、加熱ではないのではないか。水分を飛ばして筋線維のタンパク質を近接させていく。昆布締めと干物の最初の処理は似ています。干物は最初、塩でマリネする。微生物が発生しやすい環境なので太陽にあてて水分を除いていく。メイラード反応も起こりやすくなる。濃縮されたものを加熱するので、よりメイラード反応が起こしやすくなるから干物は香ばしい香りがする。ただし、干物にする過程は加熱ではないということです。
門上 髙橋さん、日本料理での干物についてはいかがですか。
髙橋 外側がほぼ乾燥していて、中の脱水状態を100とすれば、干物は60とかに落ちている状態だと思います。その分だけ味が濃縮されているので表面のアミノ酸が密になっている。中は生よりも密で、外側の味が強く、中がそれよりも柔らかい状態をつくっている。外に調味料をあてなくてもメイラード反応が強くなるので、醤油とかは上がりにかける。味醂干しとかありますが、甘いものが乗っているのでソースをかけた状態になっていて、風干ししたものはそのままで食べてもおいしい状態になっているかと思います。




