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「麺に学ぶ」Program 1:レクチャー 2/2

「麺に学ぶ」Program 1:レクチャー 2/2

Program 1:レクチャー 2/2

講師紹介

川崎 寛也氏
農学博士、「味の素株式会社 食品研究所」上席研究員

講演:『料理人のための麺のサイエンスとデザイン』

■調理と感覚

それらを踏まえて、新しい麺について考えます。「温故」の部分、故き(古き)を新しい目で見る。調理でいうと、調理場で使われている技術は加熱媒体が赤外線やオーブンを使う。空気、気体、水分を使う。油脂で揚げる、金属で直接加熱するものもあるわけです(参照:表7)。それらを踏まえて味付けについて(参照:表8)。味覚を脳に伝えるうま味はタンパク質のシグナルだと。タンパク質を分解するとアミノ酸になる。タンパク質は分子が大きいから味はしないが、分解したアミノ酸にうま味がある。糖とデンプンはつながっている。デンプンを分解した糖という甘み。タンパク質を分解したのが、うま味です。

表7:温度と調理技術(ざっくり)

表8:味覚は脳に情報を伝えるために存在する

■「だし」とは何か(参照:表9)

ポトフのような煮込み料理では肉のうま味成分を抽出している。それを日本では炭水化物の味付けに使っていませんか。日本料理ではだしのうま味は野菜や炭水化物をおいしくするのに使われてきた。これって不思議ではないか。タンパク質のシグナルがうま味です。脳は、うま味があるものを口に入れると体にタンパク質が来たなと感じるから、おいしいと思う。ところが炭水化物を分解すると糖になる。これって変ですよね。これを「うま味パラドクス」といっています。日本料理では、肉ではなくてうま味で勘違いをさせて野菜や炭水化物をおいしく食べさせる。そこが日本料理の素晴らしいところでもある。肉は脂が多いですから。日本は炭水化物を使ってエネルギーを摂ってきた。食感はそもそも表面の構造が破壊されていく時、抵抗するものです。口の中に感じるセンサーがある。触感は口の中にある感覚です。この触感を理解する。そうしたことを踏まえて「麺類の全景」を考えてみましょう。

表9:「だし」の原型

■麺類全景1・2・3

麺類全景の表で、線でつなぐとすべての麺料理が説明できます。まず、うどん(参照:表10)。小麦のタンパク質でグルテンをつくる。加水して圧力をかけることによって形ができて整形して補足する。それを茹でる。スープといっしょに盛り付ける。それが、うどんと理解できないか。ピッツアの場合(参照:表11)。タンパク質とデンプンに圧力をかけてグルテンを形成するが、イースト発酵も起こしている。それを平たくして、盛り付けして焼くとピッツアになる。天ぷらは麺類ではないと思いますが、素材をデンプンで包んで揚げると麺類といえてしまうかもしれません(参照:表12)。

表10:麺類全景うどん

表11:麺類全景ピッツア

表12:麺類全景天ぷら

■麺のガストロノミー化

イタリア料理だけが麺のガストロノミー化に成功している。コースの最初に出てくるもの、プリモ・ピアットという形で正式にメニューに組み入れられている。日本料理では、にゅうめん、うどんなどを出すところはありますが、コースの中の八寸とか煮物椀とかに麺はないじゃないですか。なぜなのか、ぜひディスカッションしたいと思います。デザインという意味で、ある料理人との取り組みを紹介します。クラシックな「アニョロッティ・ダル・プリン」という詰め物パスタ料理があって、パルミジャーノのうま味、バターの香り、パスタの触感、肉の味という組み合わせのシンプルな料理です(参照:表13)。味を感じる順番を矢印で示してますが、それをもう少し複雑にして、ガストロノミーで違う仕立てにしたらどうなるか。より複雑にやっていただきました。ジャガイモとかパスタの味、触感を感じてトリフの香りとタラのうま味も入れて白子をソースとしてとる。その結果「田舎らしい素朴さを最初に感じて最後に都市的な洗練を与えるという仕立てができた」と。包み系のものは、そういうことができます。考え方によっては「中」が複雑だと「外」はシンプルなソースが一般的だと思いますが、あえて「外」にいろいろ入れることによって、こういう仕立てもできるという可能性を考えさせられる料理でした。以上、麺類全景で線をつないでゆくと新しい麺料理ができるのではないかという話でした。

表13:アニョロッティ・ダル・プリンのデザイン

■温故知新から温新知古へ

「温故知新」に対して「温新知古」と考えてみてはどうか。「新しい料理や技術を調べて、クラシックな料理の素晴らしさを理解する」ということです。現代、どんな料理があるか。クラシックな部分をどう置き換えるか。整形の部分なら、削るということもありえる。成分変化でいうとガストロバックもあるだろうし、盛り付けには最近はエスプーマもある。そういうのを使って新しい麺類を考えることもできる。最近出てきている完全栄養のパスタもあります。これに賛成しているわけではありませんが、これから求められるのであればパスタだけで完全栄養的なものを出すことも必要かもしれません。麺のデザインにはいろんな観点があり、ミクロとマクロ、現在と過去を行き来して新しい麺料理を考えていってはいかがでしょうかという話です。

お客さんに料理のどこで感動を与えるか。最初、料理人がすることはメニューを決めて、食材の食べられない部分を取り除いてサイズを調整して、加熱して味付けをして味をあわせる。レストランとか料亭ではお客さんに出す直前までしてあげる。顧客がメニューを決めて、その間をやるのが割烹かもしれない。調味料会社は味付けの部分を担って、それまではお客さんに任せる。「味の素」にいて痛感するのは、調味料会社ができるのはここだけしかないんだと思ったりします。調理家電メーカーはサイズ調整とか加熱部分を担って、あとは顧客に任せる。今、このどこを担うかが揺らいでいます。レストラン、料亭でいろんなところを外部化する。外に出て畑に行くこともありますが、何か取り除く工程は外部化する。自然があって人間の口に入るまでは手間としては同じだと思います。それぞれ誰が担うかだけの問題です。そこをどうデザインしてくか。どこに手間とお金をかけてお客さんにこだわりを伝えるか。そういうふうに俯瞰して考えると、また違う見方ができるはず。今、どこを自分たちはやるべきなのかを考える時代にきているのかなと思います。

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