定期イベントレポート

「関西食文化研究会では、主要な活動のひとつとして、
食のプロには関心の高いテーマを投げかけるイベントを定期的に実施。
当イベントでは食通の有名人や料理人を招き、話を伺ったり実際に会員様の目で料理をする姿を見ていただいています。

 過去のサンプル記事はこちら 

イベントタイトル:「メイラード反応とは何か?」

開催日:2011.6.26

Program 2:料理デモンストレーション[イタリア料理]

山根 大助(やまね だいすけ)氏
「ポンテベッキオ」オーナーシェフ
メニュー
「カサレッチェ ホタテ貝のエキスと干しぶどうのアラビアータソース」

今日はホタテ貝の生を潰しまして、ワタを残し、そのまま使います。養殖で十分ですが、こういうところにも東日本大震災の影響が出てます。東北でホタテを養殖していたのが、ほとんどないんです。今日は、北海道の天然のホタテ。皆さんの試食の分、集めるのに何日もかかりました。

オリーブオイルと一緒にホタテ貝を潰したものをゆっくり、ゆっくり炒めていきます。始めは中火で、大事なことは、普通これくらい炒めたらいいなと思うところを越えて、炒めないといけない。ほとんど黒くなるまで炒める。そこまで炒めるのは少し勇気がいります。
それに多い目の油でタマネギとシャロットを煮ていくような感じで火を入れます。ポイントは、タマネギとシャロットをサイコロのように切り、そのまま油の中で水分を失い、ギューッと滲みていく感じ。うま味が凝縮して、水分から出てくる甘味、味の凝縮感、香りがあります。

バサバサと水分がなるまで炒めます。焦げたらいけない。塩を少し入れて水分を煮詰めます。ここでパプリカ、赤ピーマンの皮を剥いたもの。ゆっくり、じわっと水分を抜くような感じで。続いてトマト。生の糖度の高いトマトです。天然ですし、貴重品といっていいくらい、細かく切って炒めていきます。

トマトソースとあわせて、ホタテの食感が固くなるので、柔らかくするために昆布水。1リットルの水に道南の真昆布を入れて10時間少々、冷蔵庫の中でつけておいたものです。なぜ加えるか。昆布の持つアミノ酸、それとタンパク質、イノシン酸とかをあわせることで、うま味を倍加していく効果を狙っています。ホタテの味の個性か強いので、昆布は後ろに隠れて主役を引き立てる役割を果たします。

今日はだめ押しで、石川県のイシルという魚醤を使います。それにバジリコ、タカの爪を入れます。さらに、干しブドウを戻したものを潰して入れます。というように、今回は、いろいろなメイラード反応で、だんだんおいしくなっていくんですが、朝、川崎先生にお会いして「メイラード反応させている食材を多く使いすぎるとよくないですね」というと、「それを話そうと思ったんですよ」との返事。バーベキューソース味のようになっていくと。3人目の人は何をされたらいいんでしょうね(笑)。

門上 川崎先生、召し上がっていかがですか?

川崎 もともと持っているアミノ酸とは違っても、しっかり貝の味が残っています。貝にはコハク酸といううま味成分があって、それとトマトのグルタミン酸とか、相乗効果でうま味が強い状態です。貝は貝として残っていますから、同じ方向といっても違うものになっていると思います。それこそ料理人の個性です。何を使うか、火加減も、料理人によって違ってくる。それが個性になっていくのです。香りは同じ方向性だけではないと申し上げたいと思います。

木下 山根シェフの料理を試食中ですが川崎先生の講義の中で気になった箇所がありましたので、一言いいでしょうか。
先ほど肉のメイラードの説明で肉の焼き方の用語なんですがリソレとおっしゃいました。この場合はセジールという語の方がより正確に伝わると思います。
リソレという操作は必ず、後に煮込むという操作が続きます。まず、肉を強火で表面を焼く。そうすると肉の表面は一旦硬くなるわけです。肉は70度まで熱すると成分のコラーゲンが固まります。つまり表面を焼き固めるわけです。これを出し汁の中で入れて煮込む。
煮込む温度は90度で90分以上、そうすると先に表面を焼き固めていたので煮込む間、中の肉汁は外に出にくくなり、最後まで味が肉に残り、熱と時間で柔らかくなる。(追記:70度で硬くなったコラーゲンが鎖状になるが90度、90分以上熱することでコラーゲンの鎖状が切れ、ゼラチンに変化する。このような変化が肉を柔らかく感じさせる)
一方、セジールはステーキ、ソテーなどの肉に使うようです。
肉を熱した鉄板で表面を焼き固める。それからオーブンに入れて表面を熱したり、休ませたりして芯温を58度前後になるようにする。そのときに表面に出やすくなる肉汁を、前もって表面を焼くことで出にくくする。
リソレもセジールも表面を焼き固めて少しでも味が抜けるのを防ごうとする努力です。実際はどんどん出ているのですが、少しでも肉の中に味を残しておきたい切実な思いだったんだと思います。

川崎 ステーキとかハンバークとか、肉そのものを食べる場合と煮込む場合は、目的が違うということなんですね。重要な点だと思います。

山根 肉自体をできるだけ柔らかくしたい時は、しっかり焼きすぎると組織的に壊れてしまう部分が多くなるので、あまり焼かないで煮込むんです。メイラード反応を起こしている香り、コクというものが、わざと別の肉を焼いて加えて、そこはソースにしてしか食べないということはあります。というところで、よろしいでしょうか。

「カサレッチェ ホタテ貝のエキスと干しぶどうのアラビアータソース」

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