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リストランテの成長戦略

リストランテの成長戦略

小阪 歩武氏 有限会社ラッフィナート代表取締役

オーナーシェフをはじめ個人経営のレストランが成長してステップアップするとき、どのような形態をとるかは様々な考え方があるでしょう。時代背景の社会や食嗜好の移り変わりともかかわってきます。よくあるケースは支店を持つことですが、暖簾分けのように従業員が独立して別の店をかまえることも多い。私は自分のリストランテを本店と位置付け、業態がそれぞれで異なる店舗を新規出店させながら、本店と各店がつながり互いに成長できたらいいなと考えました。

イタリア料理の場合、私が独立した2000年代初めの日本では、例えばパスタやピッツアなど本来の名称や味が知られるとともにクラシカルな料理スタイルが広く受け入れられていました。同時に、本場の味にインスパイアーされた日本人シェフならではの個性的な創作にも注目が集まっていく。それは、一言でいうと日本人の感性にあったイタリア料理でした。日本産の食材を積極的に取り入れたり、日本人の好みに合うようアレンジされたりしてもイタリア料理たりえる。私はそこにイタリア料理の懐の深さというか自由さを感じました。世界に認められ確立された料理としての伝統を継承しつつ、そのオーソドックスなフィルターを通していかに自分らしさを表現できるか、なのです。

開業後幸いにも評価いただき、私は将来に備えて有限会社を起こしました。忙しくなればスタッフも増えるので社内的には組織をかためるため。それと社外的には融資が受けやすくなるなど信用を得るためです。個人経営で始めた店ですが、繁盛できるのは私を支えてくれるスタッフがいればこそ。開業したてのころは、料理にしても営業にしても私の思いがうまく伝わりませんでした。原因のひとつは私が多くを求め過ぎていたと気付いてからは、力を抜いて楽しくやろうと接するようにしました。そういうこともあり、スタッフの一人ひとりがどういう役割を担い、どのように動けばいいかなどを明快にすること、つまりは組織として働きやすくすることが大事だと思ったのです。

また、働きやすい環境づくりにも考慮しました。例えば、ポジションに相応しい賃金にしてゆくとか、休日はきちんと確保して労働時間に制限をもたせるなど。意識付けとしては、やはりヤル気をもってもらうことです。料理を突き詰めるのは必要ですが、時には気分転換したり、日頃とは別な視点を持てるような新たなことに挑戦してもらいたい。そういう狙いで新規出店を任せるのは、リストランテの延長ではなく新しい業態店にしているのです。スタッフの成長なしにはどの店でも成長はありえません。

お陰様で4年前の2018年には現在の場所に移転。新しく自社ビルを建て、リニューアルさせたリストランテを本店とした多店舗事業を進めております。新しいリストランテは、日本料理でたとえれば、小グループごとに会食を楽しんでいただける個室を配した料亭のような存在です。非日常な食の場としても親しまれ、地元に愛されるリストランテとなれるようスタッフ一同努めております。

地下1階・地上2階の3層の一軒家に思い描いてきた要素を妥協することなく盛り込んでいます。地下にはこれまで蒐集してきた器のための倉庫を設けました。
修業先の法善寺横丁の石畳にあこがれて8mのアプローチ空間を設けました。正面には能勢御影石を削り出した“つくばい”を置き、水が滴る演出とあいまって身を清めてくれます。
1階はカウンター席と厨房です。川に面した一面が床から天井までガラス窓で外の空間と一体化させました。材質の異なる2種の無垢材を合わせたカウンター、その前に置いた“へっつい” や天井は伝統的な網代貼りなど和風とモダンを融合させたデザイン空間によってどっしりと構え、供する料理への期待感を盛り上げます。
2階にはテーブル席と座敷の2つの個室を設けました。それぞれ窓際の外側には庭園空間を取り入れ、魯山人の灯籠や石彫刻家などのオブジェを配しています。
小阪 歩武(こさか あゆむ)プロフィール

1974年兵庫県生まれ。辻調理師専門学校卒業後、新神戸オリエンタルホテルに入社し飲食サービス業の基本を学ぶ。その後上京して名店「アルポルト」の片岡護氏に師事するなどイタリア料理を修業。伝統的な手法から日本人の感性や和の食材に合う料理手法まで幅広く習得し、2004年芦屋にリストランテ「ラッフィナート」を開業。2018年自社ビルに移転させ、現在はその本店を中心に計6店のラッフィナートで多様な業態のイタリアンを展開させている。

[掲載日:2022年6月3日]

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