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料理とワインの関係性

料理とワインの関係性

森永宣行さん『Droit』オーナーシェフ

関西食文化研究会・コアメンバー 髙橋 拓児の視点
「現代の少量多皿のフランス料理はワインをグラスで提供するペアリングが前提になっており、コース構成も魚と肉が交互になっていて、ボトルワインを選びにくいと感じる。それは楽しみ方が多様になっている証でもあるが、私にとってフランス料理はコースを通してボトルワインと向き合う時間を楽しむ料理。飲んでいるワインに合わせて味わいを調整してくれる料理人もいるが、時として軽すぎるなど、料理とワインが合わないと思うことも。そうしたなか「ドロワ」の森永さんの場合、味の濃さと軽さの塩梅がちょうどよく、ソースも美味しいためワインが進む。また、店へ伺うとオーダーしたボトルワインのリズムや味わいに合わせてくれるように感じる。料理とワインの関係性について理解が深く、感性の豊かさが伝わってくる料理人であり、今後も注目したい人物。話題となった移転についても考えや変化を聞いてみたい」

 

歴史ある「関西日仏学館 京都」へ移転

現代におけるクラシックなフランス料理を提案してきた『Droit(ドロワ)』。
2026年1月に、京都市左京区にあるフランス政府公式機関「関西日仏学館 京都」の1階へと移転した。

「移転前の御所東の店舗は空間もロケーションも含め気に入っていて、離れる予定はありませんでした」と、オーナーシェフの森永宣行さんは振り返る。
「けれど、フランスの文化と技術によって生かされてきた料理人として、この食文化をより日本に広めて欲しいというフランスからの要請は大変光栄でした。来年で独立10年目、43歳という年齢も含め、いいタイミングだと考えました」

由緒ある関西日仏学館の建築物は築90年を超える国の登録有形文化財。歴史を積み重ねてきた重厚な美しさを守りつつ現代の快適さを融合させるため、改修では窓に特注のガラスを嵌め込むなど数ヶ月を要した。またガラス作家・辻和美さんによるシャンデリアや優しく翻るレースのカーテンの白と壁や絨毯などのグレーのグラデーションがエレガントな印象を与える空間デザインに。色味を抑えた洗練の空間は主役であるゲストが最も美しく映える舞台として考えられているという。

料理と音楽を掛け合わせたイベントや料理とファッションのイベント、フランスの公式イベントに参画するなど活動が広がっており「縁や繋がりを意味するキュイジーヌ・リアンをコンセプトにしてきましたが、ここに来てからより、料理の力で人と人、人と町、町と町、そして国と国を繋ぐことができると感じています」と森永さんは言葉に力を込める。

 

移転がもたらした感性の解放

移転後にはどのような変化があったのだろうか。

フランス料理は“余韻の料理”と捉え、香りを大切にする考えや料理の本質は変わらない。しかし、重厚感と開放感を併せ持つ新たな空間が料理に自然と変化をもたらせた。

「空間が変わると同じ料理や器でも全く違うように見えてきます。例えば、オマール海老の料理では厨房前の錫のカウンターでスタッフと共に柑橘の皮を一気に削りかけるのですが、前の店であれば空間がミニマムだったこともあり、こうしたダイナミックな発想にはなりませんでした。表現が解放されてきた気がします」
さらに庭に植えられたハーブからインスピレーションを得て、料理が生まれることも。

先日はカモの内臓や血を使ったクラシックなカモの料理を出す予定だったが、ゲストの一人が血の風味が苦手だと知った森永さんは庭で育てるミントに着目。カモのジュとマデラ酒を煮詰め、摘みたてのミントで仕上げた清涼感のあるソースを皿に流し、即興的に料理を仕立て直した。目の前のゲストに寄り添って微調整すると共に、環境と一体になったライブ感が日々の料理に組み込まれるようになったのだ。
 

 

ワインとともに完成する料理

こうした変化を遂げながらも、森永さんの料理を語る上で欠かせないのが料理とワインとの関係性だ。コアメンバーの髙橋さんは「ボトルワインを楽しめる数少ない料理人の一人」と評するが、森永さん自身は料理とワインの関係をどのように考えているのだろうか。  

昨今のレストランでは少量多皿のコースに合わせ、料理1品に対して1杯のグラスワインを合わせるペアリングが主流となっている。一方で、食通たちの間ではボトルワインをじっくり選び、料理との変化を楽しむ時間を好む声も根強い。
森永さん自身も、ペアリングは店の個性を表現する素晴らしい提案だと話す。その上で、ボトルワインならではの魅力についてこう語る。  

「ボトルワインは生き物。抜栓してから時間が経つにつれ、機嫌が変わるように複雑な変化を遂げていきます。その変化に対して、料理の要素が繋がったり、時にぶつかり合ったりする。その違和感も含めて遊び、その時間を楽しむことこそがレストランという大人の遊び場の醍醐味ではないでしょうか」  

その考え方は『ドロワ』の日々のサービスに反映されている。  

ゲストがボトルワインをオーダーした場合、情報をサービスと厨房が共有し、ワインの個性と料理の特徴があまりに離れている場合は次の料理に合うグラスワインを1杯だけ勧めることもある。一方で、何度も来店し好みや注文の傾向を把握しているゲストに対しては、ボトルワインに合わせて味を微調整。その場合も塩分やソースの量といった店の基本は変えず、酸の強弱を中心に整える。  

森永さんは、ワインが進む味のバランスについて「料理を単体で完璧にまとめすぎないこと」だと話す。
「ソースの酸味や甘味、苦味などの要素を綺麗に一つにまとめすぎず、おもいっきり尖らせたり、わざと崩したりすることで、ワインとソースが勝手に繋がる状態を作っている感覚です」  

例えば初夏に登場する新タマネギの冷たいヴルーテでは、甘みだけでなく新タマネギの持つ“青さ”に着目。そこへフルーツの酸や甘み、スパイス、さらにガルム(イワシの発酵調味料)のヴィネグレットによる熟成香を重ねることで、味わいに複数の表情を与え、白ワインだけでなく、時には赤ワインまで受け止める一皿に。

ワインには多様な要素があるからこそ、料理を一つの味わいに収束させず、複数の表情を持たせることでワインと響き合う接点を増やしている。  

 

ワインを知ることは、ソースを知ること

ゲストの好みやワインに寄り添い、即興で味わいやソースをコントロールできるバランス感覚。それは森永さんが20年以上にわたり、料理人として、そして一人の食好きとしてワインと向き合い続けてきたからだ。

忘れられないという原体験は20代の頃。『ベルクール』での修業時代、まかないの時間には食事と共に白と赤のワインが並び、自由に飲むことが許される環境だった。ある日、サバとナス、トマト、ズッキーニを使ったオーブン料理が出た際、24歳だった森永さんは自分のグラスに白ワインを注いだ。しかし隣にいたシェフは赤ワインを選んでいた。真似をして赤ワインを口に含んだ瞬間、料理とワインの要素が見事に弾け合い、圧倒的なマリアージュを感じたという。

以来、森永さんにとってのワインの習得は「勉強というよりも、まず飲むこと」を意識するように。料理とワインの合わせ方における一般的なセオリーはひと通り学んだ上で、答え合わせのように自身の舌で確かめた。さらにセオリーの真逆も試し、時に素晴らしい発見に繋がることもあったという。固定観念を疑い、あえて逆を試してみる視点を持ったことが自身のオリジナリティに繋がっている。

料理人がワインを学び、その複雑な要素を体感として知ることは極めて重要だ。

「それはブドウが持つ酸とフランス料理の核心であるソースの酸。その関係性が理解できるからこそ、料理単体を100%で終わらせず、ワインが入り込んで勝手に引き合うための“余白の凹凸”をソースに仕込むことができるから」と森永さん。

ワインを知ることは、ソースの可能性を広げることでもあるのだ。
 

 

1936年に建設された関西日仏学館京都。緑豊かな敷地内にはテラス席や桜の木が。その一角でハーブを育てており「やがては野菜も作りたい」と話す。ランチタイムにはテーブルクロスを外し、同じ空間にして店名を変え「ドロワじゃない」を意味する、『パ・シ・ドロワ』の監修もスタート。フランスの郷土料理や地方料理をカジュアルに提供している。

 

 

テーブル19席、半個室6席を擁するエレガントな店内。フランスの伝統的な器や椅子と日本の作家の器や椅子が混在する日仏融合も注目。

 

 

    

    

「素材と素材の出会いを重ねることで生まれる楽しさを表現したい」と森永さん。記憶に残る香りを重視したコースは24200円(税サ別)~。

 

 

『Droit』

京都府京都市左京区吉田泉殿町8 関西日仏学館 1F
https://droit-kyoto.jp/

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