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食堂おがわ ✕ 髙橋拓児氏

食堂おがわ ✕ 髙橋拓児氏

小川真太郎さん「食堂おがわ」店主

関西食文化研究会・コアメンバー 髙橋 拓児の視点
「今の日本料理の世界は、どうしても高級食材を使うことに重きを置きがちで、料理人自身の腕よりも素材の力に頼っているように感じられることがあります。流行を追いかけるあまり、自分たちの本来の立ち位置が少し見えにくくなっているのかもしれません。そんな中で、食堂おがわさんはまったく違う方向を向いているんです。高級な食材に頼らず、むしろ、どこにでもあるような食材を使い、そこにプロとしての技術と知恵を注ぎ込むことで、値段以上の「値打ち」を生み出しておられます。無理に値段を上げるのではなく、工夫を凝らして満足してもらう。そのぶれない「不易の継続性」は、周りに流されやすい今の時代において、非常に強い立ち位置を築いています。気取らない雰囲気の中で日常的な会話が楽しめる心地よさも魅力です。多くの料理人が見失いがちな料理の本質、料理屋のあり方を、静かに、力強く示してくれる、そんな稀有な価値を持つお店だと思います」

 

職人として、日常に根づく「値打ち」のある料理を目指す

京都の料理界で、ひときわ異彩を放つ一軒「食堂おがわ」。四条河原町の南西エリア・通称“阪急裏”と呼ばれる西木屋町に2009年に開業して以来、13席のカウンターは連日満席。予約困難な状態がずっと続いている。

店主の小川真太郎さんは、オープンの時から居酒屋以上、割烹未満の店を目指し、人気店になった今も店を拡げたり、移転して拡張したりすることに否定的だ。「100人の料理を作るのには、また別の大変さがあると思うのですが、自分の意志が最も濃く反映させられるのは、10名程度が理想。店が小さければ小さいほど、自分の思いをそのまま形にできますから、僕にとっては今の13席がギリギリなんです」この信念は、創業当初から一貫しており、現在も変わらない。 

 

小川さんの個性や意志が色濃く反映された「食堂おがわ」はカウンター13席。“裏阪急”への揺るぎない愛着と共に存在する。 

 「自分のスタイルはあくまでも職人」と小川さんは自身の立ち位置を明確に語る。新味を狙ったり、食べる側に解釈を求めたりする「アーティスト」的な料理とは一線を画し、食べて素直に美味しいと感じてもらえる王道の味を大切にし、お客に「お口に合いますか」と気さくに問いかけ、常に客の側に立つ。

どこまでも大衆や日常と地続きな哲学は、店の価格設定にも貫かれている。
「年収400万円の方が年に数回、ちょっとしたご褒美に選んでもらえる店。それが食堂おがわの基準です。ルイ・ヴィトンではなく、ユニクロのように誰もが手が届く大衆的な店でありたいんです」現在、客単価は飲まない人で1万円、ちょっと飲むと1万3000円から1万4000円を目安とし、過度な高価格化は避ける。それこそが、屋号に「食堂」を冠した小川さんの揺るぎない信条になっている。
 

レシピでは再現できない、反復から生まれる「加減の妙」

黒板に記されたメニューは常時20数種類。だし巻きや鳥からあげをはじめ、造り、焼きもの、揚げ物など、シンプルでわかりやすい料理が並ぶ。だか、そこに注がれる手間暇は凄まじく、料理一つひとつにストーリーがある。
「美味しさは、同じ料理を繰り返し作り続けることでの、微調整と研磨の先に宿るもの。100回作った料理より、1万回作った料理のほうが絶対に美味しいと思うんです」見た目は同じでも、食すと食材の光り方が違い、そこにはレシピでは絶対に再現できない『加減の妙』がある。

 

小川さんの手書きの黒板メニューは、読みやすく、分かりやすく、書き味がある。料理一つひとつに作り込みの背景があり、どれもシンプルだが味わい深い。

 

例えば、定番の「茄子のごま酢がけ」は、揚げた茄子の油を遠心分離器のような手法で徹底的に抜き、さらに出汁の中で沸かして油を取り除き、色を飛ばさぬように鍋ごと急冷する。この執拗なまでの手間暇が、ありふれた料理を想定外の旨さへと引き上げる。「高級食材に頼らなくても、良い材料に良い調理を施せば、塩を振って焼くだけでも絶対に美味しい」と語る通り、切り方、サイズ、塩加減といった基本の精度で美味しさを決定づける。

日本料理の王道の仕事に重きを置く小川さんは外食の機会が多く、三つ星の料亭やレストランから町場の居酒屋までジャンルの幅は広く、興味があれば東京や大阪に出向くことも少なくない。
「おがわと真逆の感度のお店は、僕にとっては教科書のようなものです。いろんな学びや刺激があり、それに触れることで自分の料理や店のあり方を一度ニュートラルに戻すことができます」さまざまな刺激を受けるからこそ、最終的には「おがわの料理=材料に最適な調理を施す」という自らの原点へ、確信を持って回帰できるのだ。
 

 

映えよりも美味しさをとことん追求し、定番の「茄子のごま酢がけ」も少しずつアップデート。なすは表面から泡が出てくるまで油で揚げ、余分な油をしっかり除き、皮を剥いて、美しい翡翠色にしてからだしに浸し、1日おく。

 

西木屋町への深い愛着と共に深化する「食堂おがわ」

店がある阪急裏の西木屋町を、小川さんは京都で最もアクセスが良い、便利な場所と評価する。今もファッションホテルや風俗店もある、ともすればディープなエリアでもある。
「ちょっと大人の隠れ家っぽい感じが昔から気に入っていて、実は狙ってここに店を出しました。だから、これからもずっとこのエリアで店を続けていきたいです」

ただ現在の「食堂おがわ」は、予約困難な常連中心のサロン的空気に変化しており、「誰でも気軽に来られる食堂」の理想からは距離ができていることを小川さんは感じ、自覚している。

そのこともあって、近くに予約を受けないで昼14時から営業する「オテル ドゥ オガワ」を2024年5月に設け、さらに原点回帰を担う、時間を気にせず楽しめる大衆的な店「深夜食堂 おがわ」を近々にオープンする。食堂の気楽さにおがわ色をぎゅっと凝縮させた、うどんとつまみの店で、夜21時から朝6時まで営業。店の選択肢を増やし、営業時間の幅を持たせることで京都の夜に賑わいを創出し、もっと楽しい場を増やしていきたいという。それは、自身の目の届く範囲である四条河原町エリアへの貢献でもあり、同時に、スタッフに新たなステージを用意するという育成の視点も含まれている。

「食堂おがわ」の凄みは、単なる料理の味だけでは語れない。
誰もが知る料理に、真似できない手間暇をかける「職人」としての技術と哲学……それが実直な仕事の端々から伝わり、高級食材に頼らずとも圧倒的な満足感のある「値打ち」そのものを感じさせる。

髙橋さんが「不易の継続性」と評したように、流行を追いかけるあまり、本来の立ち位置が見えにくくなりがちな今の時代において、流行に流されず、自らの信じる「普通」を磨き続ける姿勢。それこそが、今日の京都において「食堂おがわ」が最も輝いて見える理由なのかもしれない。
 

 

 

仕入れは毎朝、バイクで市場に行き、目利きもだが、食材に合う調理法を考えることを料理人の仕事とする、小川さん。手間を惜しまず、映えより実在のおいしさ、グレードよりクオリティに即した料理が人気。

 

 

高級食材は使わず、手が届く魚の中でトップクラスを目指す。調味料も身近なもの、出汁は一番だしだけ、ポン酢や山椒オイル、柚子胡椒などはすべておがわスタイルの自家製。

 

 

 

 

 

小川真太郎
「食堂おがわ」の店主。福岡県出身。京都の名割烹「余志屋」などで修行を積み、2009年開店。明るい人柄と真摯に作る料理が人気。著書に「京都 西木屋町『食堂おがわ』の料理帖」、「京都 西木屋町『食堂おがわ』の妄想料理帖」(プレジデント社)。

 

食堂おがわ
京都市下京区西木屋町通四条下る船頭町204
営業時間は16:30から23:00
定休日:月曜 ※不定休あり
https://shokudouogawa.com/
 

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